第1回 プレミアムタケノコ掘り大会
前田 大地
5月吉日、我々は親戚の所有するタケノコ山へ向かった。
狙いは、プレミアムタケノコである。
プレミアムタケノコというのは、先っぽが地面から出るか出ないかくらいのタケノコで、熟練の職人が足で地面を踏んだ感覚によってのみ発見できるという由緒あるタケノコである。
対して目視できるほど伸びたタケノコは、ノーマルタケノコと呼ばれ、山を見渡せばそれなりに生えている。素人でも入手できる反面、プレミアムタケノコほどの希少性はない。
お恥ずかしい話だが、私はプレミアムタケノコの存在を知らないまま大人になった。大きいほうが偉いという先入観を持っていた私は、あろうことか伸び切ってむしろ半分竹になりつつあるジャンボタケノコを好んで掘っていたのだ。
しかし数年前、何かのテレビ番組でタケノコ堀りの映像が流れたとき、己の誤った認識に気がついたのである。見つけるのが難しいプレミアムタケノコこそ至高だと。ちなみに、ジャンボタケノコはその場で思いきり蹴り倒されていた。どうやら食用ですらないらしい。
それ以来、我々は幻のプレミアムタケノコを渇望した。職人のマネをして足で踏んで探してみたいと願った。しかし、蚊に刺されることを恐れて山に踏み込むのを躊躇ったまま、無情にも時間だけが過ぎていった。
重い腰はなかなか上がらず、10連休という過去最大級のGW終盤、それも日が沈む直前、親戚からの「早く掘らないとタケノコどんどん育っちゃうよ」という電話にてようやく出発を決意したのである。
山に到着してすぐ、ダイチ隊長は虫除けスプレーで戦闘準備を整える。しかし、肝心の軍手を忘れていることに気が付いた。どうやら我々は優先順位を履き違えていたらしい。だが引き返している時間などない。ふたりは開始早々、素手というハンデを背負っての戦いを余儀なくされたのだった。
さらに、ホクト隊員は、クライアントとの打ち合わせに行くのと同じ服装だったので、せめてもと白シャツの上からウルトラライトダウンジャケットを羽織っていた。さすがにウェブ制作感覚で山へ入るのは、タケノコの神的なものに対して無礼千万である。彼の額には汗がにじむ。5月のダウンは、厚着感がぬぐえない。
タケノコを掘るためのクワもひとつしかないのでホクト隊員が使う。ダイチ隊長は、仕方なく素手で土を掘ることになった。なぞの幼虫みたいなのが土から出てきたので、掘るのをやめた。
果たして、我々はいくつかのプレミアムタケノコを掘り当てることに成功した。沈む夕日。ぱらぱらと降りはじめた雨。「行こう」「どこへだ?」「「俺たちの世界へ!」」こうして最初で最後のプレミアムタケノコ掘り大会は正味30分ほどで幕を下ろしたのである。